特別損益が一株あたり利益を歪めることがありますが、これを解決する方法があります。
今回は平均収益と成長率について学びましょう。
平均利益の利用法
- かつてアナリストや投資家たちは、過去かなりの長期ーー7年から10年程度ーーにわたる平均収益を非常に重視していた。
- この「平均値」は、ビジネスサイクルによって繰り返される波を平均化するためには有用であり、企業の収益力を測るには前年の業績のみを基にするよりも信頼性が高いと考えられていた。
- このような平均化を行うことによる重要な利点とは、特別損益のほぼすべてに関してそれをどう位置付けるかという問題を解決できるという点だ。
- なぜなら企業のそうした損益のほとんどが、紛れもなくその経営史の一部だからである。
- こうした数字は、収益の成長性と安定性に関する同じ期間の評価と合わせて利用すれば、企業の過去の業績を知るための極めて有用な情報源となるであろう。
グレアムは、平均収益を重視しています。
平均化の利点は、特別損益をどこに位置付けるという問題をスルーできるためです。
会計要因の項目で扱ったように、本来は別の期間、それも複数年度にまたがって計上すべきかといったことを、過去かなりの期間を平均化することによってその問題を無視できます。
グレアムの証券分析では、過去平均収益を用いて公式を用いているため、この平均化の考えを頭に入れておくと良いでしょう。
過去の成長率計算
- 企業データにおける成長要因を適切な形で考慮に入れることは、最も重要である。
- 成長率が大きいということは、ここ数年の収益が過去7年間あるいは10年間の平均収益を大きく上回っているということであり、アナリストもこれら長期的な数字を無意味なものとみなすかもしれない。
- 平均収益と直近の収益の双方を加味しなければ、収益の計算はできない。
- 成長率そのものについては、過去3年の平均と、10年前の同様の数値との比較で計算すべきだと、われわれは考えている。
- 特別損益の問題がかかわってくる場合は、数値がある程度正確さに欠けても仕方なかろう。
グレアムは過去の成長率を計算するために、直近3年分と11〜13年前の3年分の一株当たり利益を比較します。
この時、特別損益の影響が大きい場合には、それらの項目を加味すると正確性が増します。
表12−1の例
- 一般的には株式評価のための核と考えられているこの数字が、ALCOA社の場合どの程度の意味があるのだろうか?
- 同社の過去の成長率は素晴らしく、高い評価を得ているシアーズ・ローバック社のそれを若干上回っており、ダウ銘柄との比較ではずば抜けている。
- だが1971年初めの株価に、この素晴らしい業績が反映されているようには見えない。
- ALCOA社の株価は過去3年間の平均収益の11.5倍、片やシアーズ社は27倍、ダウは15倍強であった。
実際に価値評価をしているのが表12−1です。
ALCOA社の過去の成長率は141%=(4.95ー2.08)/2.08と、シアーズの134%を若干上回っており、ダウ平均の成長率75%を大きく上回っています。
しかしPERの観点では、ALCOA社は過去3年間の平均収益11.5倍であり、シアーズの27倍やダウ15倍と比べて過小評価されていました。
将来を悲観されている
- なぜ、このようなことになるだろうか?
- 並外れた過去データにもかかわらず、ウォール街がALCOA社の将来性をかなり悲観視しているのは明らかである。
- 驚くべきことにALCOA社株の最高値は、今を大きくさかのぼる1959年に付いたものだ。
- その年に付いた株価は116ドルで、株価収益率は45倍であった。
- シアーズ社の当時の調整済み高値は25.5ドル、株価収益率は20倍。
- 確かにその後ALCOA社は素晴らしい成長を達成したが、このケースは明らかに、将来性が株価にかなり過大に織り込まれていたパターンであった。
- 同社の1970年の最終株価は、1959年の高値のちょうど半分となり、その間にシアーズは株価が3倍に、ダウは30%近くも上昇したのである。
ALCOA社の過去の成長率は高いのに、株価収益率が低い理由は、ALCOA社の将来性をかなり悲観されているためです。
過去にはALCOA社は過大評価されていたようですが、結果的には株価は半値になってしまいました。
注意点
- ここで注意しなければならない点は、かつてのALCOA社の総資本利益率はせいぜい平均並みにすぎず、それがここでの決定的要因であるかもしれないということだ。
- 企業が平均以上の収益性を維持できてはじめて、高い株価収益率が維持されるのである。
ここでグレアムが注意しているのは、ALCOA社の低い株価収益率は、その収益性に問題があるからかもしれないと指摘しています。
成長株がそうですが、平均以上の収益性を維持できてはじめて、高い株価収益率が正当化されるのであって、そうでないのであればその将来性は悲観されがちです。
価値評価のための作業分担
- ここで、「価値評価のための作業分担」(第11章)でわれわれが提案した手法を、ALCOA社の場合に当てはめてみよう。
- このやり方に従えば、ALCOA社の「過去の業績の価値」はダウの10%という計算になるかもしれない。
- つまり一株当たり84ドルに対して、ダウの1970年の最終指数は840ドルということである。
- これを基準とすれば、57.25ドルという株価は非常に魅力的にみえたことであろう。
第11章で扱った価値評価を実際に行なっています。
gyatuby.hatenablog.com
最初は過去の業績のみに基づく価値を、公式に基づいて導き出します。
シニアによる調整
- シニアアナリストは将来性の低さを加味するために、どの程度まで「過去の業績の価値」の評価を切り下げるべきなのであろうか?
- 率直なところわれわれには分からない。
- そのアナリストに、「ダウには上昇が見込まれる反面、ALCOA社の1971年の一株当たり収益は、70年のそれを大きく割り込むわずか2.50ドルになるだろう」と考える相応の理由があるとしよう。
- 恐らく株式市場は、その惨憺たる結果を重大に受け止めるだろうが、だからといって本当に、かつては強大さを誇ったアルミニウム・カンパニー・オブ・アメリカが相対的に利益の上がらない企業とみなされ、有形資産以下に評価されることにつながるのだろうか?
次にシニアアナリストは、「過去の業績の価値」にALCOA社の将来性の低さを加味するため、調整を行います。
この調整をどのように行うかはシニアの腕の見せ所ですが、過去の大企業を有形資産以下の価値まで評価を落とすのは妥当なのでしょうか?
価値評価をあまり信用するな
- ALCOA社はまさに代表的な大規模事業会社であるが、その株価と収益の歴史は、他の大企業のそれと比較すれば例外的であり、矛盾に満ちているとさえ言える。
- だがひとついえるのは、本章で取り上げた例が、価値評価の手法を用いることで典型的な事業会社を評価して得られる結果の信頼性への疑問という、第11章でわれわれが提起した問題に対して、多少なりとも裏付けを与えてくれているということである。
第11章でも述べられていますが、価値評価は往々にして外れます。
そのため読者は、このような価値評価にのめり込まずにいることが重要と言えるでしょう。
なんならレーティングの発表それ自体が、売り抜けの合図にもなり得ます。
まとめ
- 平均化を行うことによる重要な利点とは、特別損益のほぼすべてに関してそれをどう位置付けるかという問題を解決できるという点だ。
- 成長率そのものについては、過去3年の平均と、10年前の同様の数値との比較で計算すべきだと、われわれは考えている。