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証券分析第2章③〜証券分析の数量的要因と質的要因

企業分析に使う情報は、大きく2つの種類に分けられます。

それは数字などの「定量的な情報」と、会社の方針や評判などの「定性的な情報」です。

今回は、それぞれについてわかりやすく説明していきます。

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企業分析の数量的要因と質的要因

  • 企業分析のさまざまな要因を数量的要因と質的要因に大別することは便利である。

企業分析をするとき、いろいろな要素(売上や利益、経営方針やブランド力など)を見ていきます。

それらの要素を「数量的要因(=数字で表せるもの)」と「質的要因(=数字では表しにくいもの)」の2つに分けると、分析がしやすくなって便利だと述べています。

このように分けることで、分析の視点が整理され、バランスよく企業を評価できるようになります。



数量的要因

  • 数量的要因とは主に当該企業の統計データである。
  • それには損益計算書やバランスシート(貸借対照表)などの重要な統計のほか、生産、製品価格、経費、生産能力、受注残などのデータも含まれる。
  • これらのデータは、①資本、②収益・配当金、③資産と負債、④営業収支━━の各項目に分類されている。

企業を分析する際に用いられる「数量的要因」とは、企業の経営状態を数字で示したデータのことを指します。

現在ではさまざまな定量的データを入手することができます。



質的要因

  • 一方、質的要因はその企業の特質に関するもので、それには産業界における地位、物理的・地理的および営業的な特徴、経営陣の能力などのほか、その企業・業界および経済界全体の将来の見通し━━などが含まれる。
  • 通常、この種のデータは企業の決算報告書には盛り込まれない。
  • しかし、証券アナリストは人々のさまざまな見解を含めて、信頼性の異なるさまざまな情報についても自らの判断で対処しなければならない。

他方で「質的要因」とは、数字では表しにくいものの、企業の特質や強み・弱みを示す要素を指します。

有価証券報告書決算短信には、経営陣が語る将来の見通しが書かれているため、投資の参考になります。

また、メディアでは証券アナリストや専門家のさまざまな意見や分析も知ることができます。

こうした情報を集めたうえで、最終的には自分で判断することが大切です。



数量的要因のメリット

  • 一般に、数量的要因は質的要因に比べて詳細な分析が可能である。
  • 数量的要因は質的要因ほど多岐にわたることもなく、入手も容易であり、信頼するに足る明確な結論を出しやすい。
  • 一方、企業の財務報告では多くの質的要因が要約されているため、質的要因についてそれほど詳しく分析する必要がないという見方もある。

今では、企業の情報が決まった形式でまとめられているため、他の会社と比較しやすくなっています。

また、その企業について詳しく調べることも簡単にできます。


情報は、会社のホームページや、TDnet・EDINETといったサイトから簡単に手に入ります。

なお、このあと詳しく説明しますが、質的要因にはすでに数量的要因の内容が含まれているため、あえて質的要因を細かく分析しなくてもよい、という考え方もあります。



企業の特質と将来の見通しを映す質的要因

  • 企業の質的要因とは、その企業の特質や経営陣の能力などに関するものである。
  • これらの要因は極めて重要ではあるが、明確に把握するのが極めて難しい性質のものである。
  • まず最初に、その企業の将来の見通しが読み取れる企業の特質について検討してみよう。
  • 一般の人々はその企業が「優良企業」かどうかについては明確な考えを持っている。
  • そうした考えはその企業の業績、業界におけるその地位に関する知識、または推測や単なる思い込みなどに基づいている。

一般的に「一流企業」とされるかどうかは、多くの場合に人々の常識やイメージに基づいて判断されています。

これは後の著書『賢明なる投資家』でも触れられています。

市場(マーケット)は、人々の感情が強く影響する場所なので、このような考え方にも納得がいくでしょう。

このように、質的要因も投資において重要ですが、数値のようにハッキリとは見えにくく、正確に把握するのがとても難しいものです。



景気循環

  • 異常な好景気や不況というものは永遠に続くものではないからだ。
  • それは経済全体についても言えるし、特定の産業についても言えることである。
  • 普通は自動修正力というものが働いて、不況の産業には利益が舞い戻り、資本に不相応の利益を上げていた産業では減益となるものである。
  • 特に需要の増大で潤っていた産業では、供給量が急増して減益となる。

ずっと続く好景気や不況は存在しません。

この景気循環を利用して、バリュー投資家は安いときに買って、高いときに売ることが可能です。



経営能力

  • 特に優れた経営能力を持つ企業を探すのもこれまた簡単ではない。
  • 経営能力を測る客観的で科学的な基準があるわけではないからだ。
  • 多くの人々はそれに値すると思われる評判を頼りに投資している。
  • そのなかで優れた経営能力を測る最も納得できる証拠のひとつは一定期間にわたる好業績であろうが、これも突き詰めれば数量的要因に含まれてしまう。

優れた経営者を事前に見つけるのは、実は簡単なことではありません。

その経営者の力が業績に表れる頃には、すでに数量的要因に織り込まれていることが多いからです。

とはいえ、名前や肩書き、世間での評判といった「目に見えない情報」だけに頼るのも、少し頼りなく感じるかもしれません。



二重評価による過大評価

  • 株式市場ではその企業の経営能力というものを2回評価する傾向がある。
  • ある企業の株価とはその優れた経営能力が生み出した好業績を反映したものだが、株式市場ではそれに加えて「優れた経営能力」をもうひとつの好材料として織り込んでしまう。
  • こうした同じ材料を2回使うことで、過大評価による株価の異常な高値が生まれるのである。

評判や肩書きで経営能力を判断するのは簡単ではありません。

とはいえ、経営能力の良し悪しを業績で判断しようとすると、どうしても過大評価してしまいがちです。

なぜなら、好業績という数量的要因を評価しながら、さらに経営陣の優れた能力を高評価するからです。



収益トレンド

  • 過去のトレンドを未来にまで延長することで将来の予測し、これをその企業の評価基準とする傾向がある。
  • しかし、過去のトレンドは事実であるが、「将来のトレンド」は単なる推測でしかない。
  • 異常な繁栄や不況は永遠に続くものではないと先に指摘したが、同じように上昇または下降トレンドも永久に続くものではない。
  • トレンドが確実に多くの人目を引くころには、すでに変化の機が十分に熟しているのである。

過去の収益トレンドが今後も続くと考えて企業を評価するのは、それなりに理にかなっています。

というのも、将来のことを正確に予測するのは難しいので、過去の実績を手がかりにするのは便利だからです。

ただし、その収益トレンドがずっと続くわけではありません。

どの企業も、いつかは成長が鈍くなり、やがて衰えていくのが自然な流れです。

そして、誰が見ても業績が好調だとわかる頃には、すでにそのピークを過ぎている場合も多いのです。



トレンドは質的要因

  • トレンドを重視しすぎると過大評価や過小評価といった間違いを犯すことになると言うにとどめる。
  • このことはトレンドを将来にも際限なく延長しがちであるという点ではよくあることであり、したがって一見数学的に見える評価法も実際には心理的かつ恣意的な要因に基づいているのである。
  • 以上の理由から、トレンドがどれほど数量的要因として強調されようとも、現実には「質的要因」であると考えるべきである。

成長株を評価するときによくあるのが、「これまでの成長スピードが今後も続くだろう」と考えてしまうことです。

一見、数字を使っていて論理的に見えますが、将来の予測という点では、この「成長トレンド」は感覚や印象に近い質的要因だと言えるでしょう。



不確実な質的要因

  • 企業の性質や経営能力に関するさまざまな結論も基本的には将来の見通しに基づいている。
  • すべての質的要因には証券アナリストの理解を超える難しさが潜んでいるということである。
  • 突き詰めて言えば、証券アナリストはさまざまな質的要因がその証券の価格にどれほど反映されているのかということを正確に判断することは不可能である。
  • 相場の上昇と下落が繰り返されるのは、将来の見通しに基づいて価格が形成されるときに、人々の判断が数学的に妥当な範囲を超えてどちらか一方の極端に向かうためである。

過去のデータに基づく数量的要因と違い、将来の見通しに関することは質的要因とされます。

たとえば、企業の特徴や経営陣の能力などが質的要因ですが、たとえ専門家である証券アナリストでも、それをどこまで正しく評価できているかを判断するのは難しいものです。

実際、株価が大きく上がったり下がったりするのは、多くの人の判断が企業の本来の価値(ファンダメンタル)を超えて、どちらかに極端に偏ってしまうからだと言えるでしょう。



事実に基づいて身を守る

  • 証券分析で取り扱う数値は事実によって裏付けられたものであり、期待値による数字ではない。
  • その点で証券アナリストの分析アプローチは、将来の予測能力がその成否を決める投機家のそれとは正反対である。
  • とはいえ、証券アナリストも証券の変化の可能性については考慮するが、その目的はそこから「利益を得る」ことではなく、それによって「身を守る」ことにある。

バリュー投資家は、企業の過去の実績をもとにして投資の判断をします。

一方、投機家は将来の予測に基づいて動きます。

つまり、将来こうなるだろうという「期待値」をもとにお金を投じるのです。


もちろん、バリュー投資家も将来の見通しをまったく無視しているわけではありません。

ただし、それは大きな利益を狙うためではなく、リスクを避けるためのものです。

なぜなら、過去の業績が良くても、それが一時的なものであれば、今後の利益は見込めない可能性があるからです。

その場合、バリュー投資家は投資を見送るという判断ができるのです。



重視する質的要因は安定した要因

  • 証券アナリストが最も重視する質的要因とは「本来的に安定した要因」である。
  • 安定した要因というのはあまり変化せず、それゆえ企業業績の予測にとって信頼性が高いものである。
  • 企業の安定性とは業績というよりは主にその企業の性質を反映する質的な要因である。

バリュー投資で使う「平均的な収益」をもとに将来の利益を予測するには、その企業のビジネスが安定していることが重要です。

たとえば、景気によって業績が大きく変動する自動車産業よりも、日常的に必要とされる食品などを扱う小売チェーンのほうが、収益が安定していて安心できます。

そのため、小売チェーンのような企業のほうが、投資先としてより安全だと言えるのです。



要約

  • 数量的要因と質的要因に関する以上の分析結果を要約すると、証券アナリストの判断は常に事実に基づく数字と確立された基準に基づくべきであるという結論になる。
  • その証券の発行会社が統計的に目を見張るような業績を示していても、将来の業績や経営能力に疑問や不信感を抱く要因が認められるような場合には、その証券への投資は見合わせるのが賢明である。
  • 繰り返すが、過去の信頼できる統計データに基づく結論は不確実な将来の状況によって覆されることは少ないため、証券アナリストとしては「安定性のある」質的要因を重視すべきである。
  • そして数量的要因に基づく決算数字などが極めて有利な質的要因によって裏付けられているような場合には、かなりの自信をもって証券の選択に臨むこともできるだろう。
  • しかし、その判断が多くの質的要因に基づく場合には(その証券の価格は統計データで裏付けられる範囲をかなり上回っているような場合など)、往々にしてその分析判断の許容範囲はあいまいになるものである。
  • これを数学的な表現で言えば、好業績の統計データは証券アナリストの正しい判断にとって「必要条件」ではあるが、けっして「十分条件」ではないのである。

バリュー投資家は、基本的に過去の実績(数値)をもとに投資判断をしますが、それだけではなく、質的要因もある程度は考慮する必要があります。

その中でも特に注目すべきなのは、企業の性質など、安定した質的要因です。

実際、証券アナリストの分析の精度は、この質的要因をどれだけ正確に評価できるかに大きく関わってきます。

繰り返しになりますが、統計データ(数量的要因)だけでなく、質的要因もバランスよく取り入れることが大切です。




まとめ

  1. 数量的要因とは主に当該企業の統計データである。
  2. 企業の質的要因とは、その企業の特質や経営陣の能力などに関するものである。
  3. 数量的要因は質的要因に比べて詳細な分析が可能である。
  4. トレンドがどれほど数量的要因として強調されようとも、現実には「質的要因」であると考えるべきである。
  5. 証券アナリストとしては「安定性のある」質的要因を重視すべきである。
  6. バリュー投資家は、基本的に数量的要因をもとに投資判断をするが、それだけではなく、質的要因もある程度は考慮する必要がある。

おわりに

日銀によるETF売却の決定はサプライズでした。

日銀がETFを売却すると、市場に株が出回り株価が下がる圧力が生じます。

投資家心理も冷え、短期的に株価変動が大きくなる可能性があります。

ただし売却ペースは緩やかになる予定のため、市場への悪影響をそれほど気にする必要はないかもしれません。

ETF売却に100年以上かかるということは、今ある巨額の含み益を即座に国庫に返納することができません。

100年以上好景気だったことは今まで一度もありませんが、幻の含み益とならないことを願いましょう。

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