証券アナリストが行う普通株の分析は、一見難しいように見えて案外シンプルなものです。
今回はアナリストたちが行う普通株の証券分析について学んでいきましょう。
普通株の分析
- 普通株を分析する際に理想的なパターンとは、銘柄の評価を行なってそれを現在の価値と比較して、その株が魅力ある買い物かどうかを決定するやり方である。
- 銘柄評価は通常、将来の何年間かにわたる平均収益を見積もって、それに適切な「資本還元比率」を乗じることで求められるものである。
- 現在主流となっている手順に従うと、将来の収益力を計算するにはまず、企業規模、販売数量、粗利益、売上額、営業利益に関する過去のデータを求めることから始まる。
- 続いて、販売数量と価格が過去との比較でどれだけ変化するかに関する憶測に基づき、将来の売上高が導かれる。
- 将来的な国民総生産(GNP)の予測を柱に、業界や企業の評価に用いられる特別な計算式がその基礎となっている。
グレアムはバリュー投資家であるため、銘柄の評価を行ってそれを現在の価値と比較して、買うべきかどうか判断します。
ここで語られる銘柄評価は、あくまでアナリストが用いる一般的なものであり、実践で使うものではないでしょう。
しかし、証券アナリストがどのように理論株価を算定しているのか知るには役に立ちます。
ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法
もし詳しく興味がある方はDCF法で調べてみてください。
www.ma-cp.com
毎年のキャッシュ・フロー(または収益)を見積もって、それを還元利回りで割引いて現在価値を算定します。
予測の精度
- しかし、ここの銘柄の予測を見ると、的外れなものも多いことに識者は気づくはずだ。
- これは、総合的な予測の方が個別銘柄の予測よりも信頼性が高いというわれわれの考えを裏付けているといえるであろう。
実際の予測の精度はどの程度のものなのか、表11−2で示されています。
ご覧になれば分かるとおり、2倍以上外しているものもありますが、ダウ平均で見ると予測はほどほどに合っていたことがわかります。
分散投資の意義
- 理想をいえば、証券アナリストは、自分が最も理解していると思える企業を3〜4社選び出して、それらに関する予測に自分自身および顧客の関心を集中させるべきなのであろう。
- 残念ながら個別銘柄予測に関して、信頼に足る予測と、大きな間違いである可能性を持つ予測とをもって見分けることは、ほとんど不可能に近いようだ。
- 実はそこに、投資会社が広い分散投資を行なっている理由がある。
- 確実に儲かる銘柄が分かっていれば、それに投資資金を集中する方が、分散投資などで月並みの投資結果に終わるよりも望ましいに決まっている。
- しかし、絶対確実という保証などないわけで、これは現実的には不可能だ。
- 分散投資が一般に広まるということは、ウォール街が絶えず口先で賛辞を送っている「選択性」に対する妄想を、実際上拒絶することにつながるのである。
個々の銘柄の予測が絶対確実という保証がなければ、銘柄予測の意味はあるのでしょうか。
これは期待値的にはアリと言えます。
現にダウ平均としてみたら、予想はほどほどに当たっています。
それゆえに、この後に続く証券分析を行ったとしても、それに集中投資するのではなく、10〜30銘柄に分散投資することをグレアムは推奨しています。
還元利回りに影響を与える要因
- 株の価値を決定する第一の要因は将来の平均収益であろうが、証券アナリストたちは、基準の明快さはまちまちながらその他にも多くの要因を考慮に入れている。
- これらのほとんどは還元利回りと呼ばれるもので、これは銘柄の「質」によって大きな幅で変化する。
- よって例えば、1973〜75年にかけての一株当たりの予想利益がともに4ドルの二社の企業があるとして、アナリストが一方の評価をたったの40ドル、もう一社を100ドルと評価することもある。
基本的にはキャッシュフロー(または収益)を見積もる方が主軸となることが多いですが、割り引く際の還元利回りもまた重要な要素です。
本書では、還元利回りに影響を与える要因として次の5つを挙げています。
- 全般的な長期見通し
- 経営者
- 財務内容の健全性と資本構成
- 配当実績
- 現在の配当率
1、全般的な長期見通し
- 遠い将来に何が起きるかはだれにも予測できないが、アナリストや投資家というのは将来の見通しに関して強い見解を有している人たちである。
- 彼らのさまざまな考えが、個々の会社や業種間の株価収益率の差となって表れている。
- 例えば、1963年末におけるダウ平均採用の化学企業は、石油会社より株価収益率がかなり高く、石油会社よりも化学企業の方が将来性を高く評価されていたことが分かる。
- 市場評価のこうした差は確実な根拠に基づいている場合も多いが、過去の実績でみると市場による評価の正誤は半々程度のようである。
当たり前の話ですが、将来の見通しが良いほど株価は上がります。
市場参加者のこうした見通しの違いが、個々の会社や同業種間の株価収益率の差となって現れてきます。
現在でいうところの石油会社の株は、昨今の温暖化問題もあって見通しは良くないのでPER(株価収益率)は低い傾向にあります。
とはいえ会社も黙ってはいません。
例えばINPEXでは、天然ガスに力を入れている他、再生エネルギーや二酸化炭素の埋め立て技術に投資を行って、市場の評価を改善させようとしています。
2、経営者
- ウォール街では経営者に関して常にいろいろなことが言われているが、そのなかで本当に役立つ事柄はほとんどない。
- 傑出した成功を収めている企業は、並外れて優秀な経営者がいるというのは妥当な考え方である。
- そのことは過去の業績には既に表れているわけで、その実績が今後5年間、またさらに長期的に続いていくと考えられるからだ。
- だが、そのことを単独の強気材料として考慮したならば、過大評価に陥る恐れが高い。
- われわれの考える、経営者の分析が最も役立つケースとは、経営者の交代が最近なされ、それによる影響がまだ実際に数字となって現れない段階にある企業である。
優れた経営者によって業績が良くなるのは至極真っ当な考えと言えるでしょう。
そうした結果は過去の数字として財務諸表等に現れますが、これが将来もずっと続くかはわかりません。
そのため経営者が有能だからという理由だけで、銘柄に恋するのは危険といえます。
グレアムが役に立つと考えるケースは、経営者の交代が行われた時です。
交代時には新経営陣に期待されていなかった場合には、その後の業績次第で化ける可能性もありますし、その逆で期待外れだった場合には株価が暴落することもありえます。
3、財務内容の健全性と資本構成
収入が同じであれば、お金持ち企業の方が評価されるのは当たり前です。
とはいえ借金して(レバレッジをかけて)投資を行い、収入を増やす努力をしたほうが、普通株の利益向上につながり、結果的に株価に良い影響を与えることが少なくありません。
4、配当実績
- 優良銘柄を見分けるための有力な基準のひとつに、過去長年にわたる配当支払実績が挙げられる。
- 過去20年以上にわたって滞りなく配当があれば、それは企業の質を評価するときのプラス材料になるとわれわれは考えている。
- 防衛的投資家の場合、こうした基準を満たす銘柄に投資を限定した方がよいであろう。
業績が悪いと無配にする企業がある中で、それでも配当を続けてる企業は体力があり優良な会社であることが多いです。
配当実績をまとめているX(旧Twitter)のポスト、ブログで確認するのはいいことでしょう。
また情報ソースを大事にするならば、有価証券報告書の最初のまとめページに5年分の配当情報が載っているので、過去数年分の有価証券報告書を閲覧するのも一手です。
5、現在の配当率
- 幸い大部分の企業は、平均収益のおよそ3分の2を配当に回すという標準配当方針に従うようになってきているが、近年では企業が高収益を上げ、資金需要も非常に高まっているために、この率は低下する傾向にある。
- とはいえ成長企業の分野では、利益のほとんどを内部留保に回して業務拡大の資金に充てた方が、より株主の利益となることを口実として、かつては標準とされた方針ー収益の60%以上を配当に回すーが守られることは少なくなっている。
配当性向が3分の2という条件は、日本株では優秀な部類に入るでしょう。
とはいえ近年では、配当性向を株主還元の指標の一つとして採用している企業もあるので、優良企業の目安となるかもしれません。
また成長株に関しては、配当に回すより事業投資を行った方が収益が向上するため、株主の利益になるという考えで、配当性向が低いどころか無配であることも少なくありません。
まとめ
- 普通株を分析する際に理想的なパターンとは、銘柄の評価を行なってそれを現在の価値と比較して、その株が魅力ある買い物かどうかを決定するやり方である。
- 銘柄評価は通常、将来の何年間かにわたる平均収益を見積もって、それに適切な「資本還元比率」を乗じることで求められるものである。