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証券分析第11章〜債券投資の基準⑥

今回が債券投資の基準を扱う最後になります。

これまでの債券投資の基準のまとめも載せているので、繰り返し頭に入れましょう。

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出発点となるニューヨーク州法令(前回)

  • 実際問題として、債券投資家は貯蓄銀行の投資を規制している法令・規則の基準を取り入れることでかなり満足すべきリターンを得ることができるだろう。
  • しかし、それらの法令・規則は貯蓄銀行にとってはベストの理論的基準かもしれないが、「一般的な投資原則」として適用するにはあまりにも不備が多すぎて使えないこともある。
  • それゆえ包括的な投資基準を作成する場合には、最終的な手本というよりはガイドラインまたは出発点としてニューヨーク州法令を検討すべきであろう。

何も手掛かりがないよりかは、すでにある法令や規則をもとにルール作りするのは理にかなっているでしょう。

しかし、スタートとなるニューヨーク州の法令の範囲は極めて多岐にわたっていますが、その多くは重要な点で時代遅れであったり、また完全に理論的または科学的な基準に基づいているのものも少ないようです。

そのため、あくまでルール作りの手掛かりとしてニューヨーク州法令を分析します。



ニューヨーク州法令の一般基準(前回)

  • ニューヨーク州法令に規定された債券投資の一般基準は、①発行体の性質と立地、②発行体の規模、③発行証券の条件、④債務返済・配当能力の実績、⑤支払利息に対する収益の比率、⑥債券発行残高に対する資産価値の比率、⑦債券発行残高に対する株主資本の比率━━に大別される。

今回は⑦ 債券発行残高に対する株主資本の比率について見ていきます。



資本金と債券債務

  • 債券債務を差し引いたあとの資本金と剰余金の合計は、負債を差し引いた資産ということができる。

一般的に「純資産」といえば、資産から負債を差し引いた金額を指します。

しかし、ここで扱われている純資産は少し意味が異なり、負債のうち「債券債務」をあらためて取り出して計算しています。

つまり、通常の純資産とは計算の前提が違う点に注意が必要です。


また、簿記でいう純資産は「資本金+剰余金」で構成されますが、この文脈ではその部分を「株主資本」として表示しています。

名称が変わるだけでなく、読み取るべき意味もわずかに異なるため、財務分析では用語の定義をしっかり確認することが大切です。



ニューヨーク州法令の規定

  1. 固定負債は固定資産の60%を超えてはならない、
  2. 株主資本は固定負債の少なくとも2/3以上は確保しなければならない。
  • 上記のバランスシートの算式を見ると、実はこの2つの算式はほぼ同じことを意味していることが分かる。

計算例では、流動資産と流動負債の差額が運転資本として表示されています。

また債券債務を固定負債から別記しているのも特徴です。



こうした安全基準を適用する問題点

  • しかし、こうした資本金の安全基準を公益事業債に適用することには多くの問題がある。
  • 決算数字だけでその債券の安全性を測ることの誤りについては先に指摘したが、実際には次のようなケースもある。
  • 例えば、ある公益事業会社の損益計算書の決算数字は満足のいくものだが、資産のカバー率が極めて低いような場合、その収益率は高いが財務力は弱いということになる。
  • こうした状況の下では、資産価値または株主資本に関するこうした投資適格基準を公益事業債や鉄道債に適用することは問題である。

借金を返済する能力は、必ずしも「お金持ち」であるかどうかでは決まりません。

たとえ手元資金が多くなくても、安定して十分な収入があれば問題なく返済できます。


しかし、ここで厳格に「資本金の安全基準」を当てはめてしまうと、こうした健全で優秀な企業が発行する債券であっても、形式的に投資不適格と判断されてしまいます。

本来なら安全と評価できる企業まで除外されるため、基準の使い方には注意が必要です。



期待収益が怪しければ資産を厳しく見るべき

  • もちろん、その会社が将来の債券債務の支払利息をどれだけ賄えるかのベースとなる業績見通しが疑わしいような場合、簿価に基づくこうした株主資本基準を公益事業債や鉄道債などに適用することに反対する理由はない。
  • ただしそのような場合でも、債券債務60%に対して資本金+剰余金が40%という一般的な基準は、支払利息に対する収益の倍率が1.75倍という最低基準よりも厳しくすべきである。

もちろん将来の収益が怪しければ、資産を厳しく見る必要があります。

この時、ニューヨーク州法令の基準より厳しくするべきと述べています。



企業の実質価値を重視

  • われわれがこうした資産価値の基準に反対するのは、「固定資産の簿価」はその債券の安全性を測る基準としては実際にはまったく意味がないという理由による。
  • しかしその一方でわれわれは、債券債務に対する「継続企業としての価値」の大きな安全余裕率は重要であるばかりか、確定利付き証券の安全性を保証する確かな条件でもあると考える。
  • そうであるならば、それが鉄道債、電話債またはデパート債であるとを問わず、投資家がその会社の債券に自分のおカネを投じるときには、その会社の継続企業としての価値が資産をどれほど上回っているのかよよく考えてみる必要がある。

支払った金額を示す簿価ではなく、その固定資産を使用して生まれる価値(収益を生む価値)が重要です。

グレアムは債券債務に対するこの使用価値の大きな安全余裕率が重要であるとともに、確定利付き証券の安全性を保証すると述べています。



継続企業としての価値と収益力

  • その会社の「企業実体としての価値」はその収益力によって決まる。
  • そしてその収益力を裏付けるのはその会社の業績である。
  • というのは、収益力とはその会社の支払利息の負担能力と、継続企業としての価値が債券発行残高の額面総額をどれだけ上回っているのかを反映したものであるからだ。
  • 債券の選択に際して、多くの投資家が数字上のまたは数量的要因の大きな目安としてその会社の業績を重視するのもこうした理由による。
  • それ以外のすべての基準は、質的または主観的な要因である(経営陣の能力や業績見通しなどに関する個人的な見方など)。

企業それ自体の価値はその収益力によって決まり、その収益力を裏付けるのはその会社の業績です。

そのため多くの投資家が損益計算書に目を通します。



業績だけで見るリスク

  • その債券の安全性を測る基準は単純で検討項目が少ないに越したことはないが、もしも支払利息に対する収益の安全余裕率などをひとつの基準だけで測ろうとすれば、問題があまりにも単純化される危険性がある。
  • 例えば、業績の検討期間を一時期だけに絞れば、その期だけの業績しか分からず、または損益計算書にその期の正確な収益の数字が反映されない場合もあり、業績の実際の傾向を把握するのが難しくなるだろう。

検証項目は単純であればあるほど望ましいですが、会社価値の測定を誤るリスクが存在します。

例えば、検討期間の業績がその会社の収益力を反映していないこともありうるでしょう。



株式時価に基づく株主資本

  • こうした理由から特に工業債などについて、継続企業としての価値がその債券投資をどれほど上回っているかを見る場合にはほかの数量的指標で補足する必要がある。
  • そうした目的を満たすひとつの指標は、債券債務に対する「株式時価レシオ」であろう。
  • この株式時価レシオはバランスシートの数字や普通の評価法に比べて、継続企業としての適正な価値をよく表す指標のひとつとして広く認められている。

こうした理由からPL項目だけで企業価値を算定するのはあまりに単純化しすぎます。

そこでグレアムは債券債務に対する株式時価レシオを用います。



使用目的

  • ただそこで注意しなければならないのは、われわれが提案するこの株式時価レシオは、株主資本が債券債務をどのくらい上回っているかをいわば限定された目的でしか使用できないということである。
  • われわれは何も、株式の時価がその企業の適正な価値または本質的価値を正確に表していると言っているのではない。
  • そうではなくて、その企業の価値を測る「ひとつの大ざっぱな指標」または手掛かりとしてこの株式時価レシオを提唱しているのであり、業績データを分析するひとつの手段として活用すれば有効であろうと言っているのである。

何も時価企業価値の全てを表すとはグレアムは述べていません。

時価は、時には不当に低い場合も投機的な水準にある場合もあります。

あくまで企業価値を測る大ざっぱな指標のひとつとして使っているだけです。



効用

  • 時価換算の株式資本金が債券債務の何倍になっているかを見れば、その債券の安全性は一目で分かり、逆に時価換算の株式資本金が債券債務よりもかなり少なければその会社の債券はリスクが大きいとすぐに理解できる。
  • われわれはこの株式時価レシオをとりわけ工業債の投資適格を測るひとつの指標として提唱したい。

この株式時価レシオは比較的単純に計算できるため、検証も簡単にできるでしょう。



株式時価レシオの最低基準

株式時価レシオの最低基準
  • もしこの2つの指標の間にこのような関係が常に成り立っているのであれば、これら2つの指標を適用する必要はなく、どちらか一方を使うだけでよい。
  • しかし2つの指標が一致しないときには、その原因についてよく考えてみる必要がある。

この表のインタレスト・カバレッジについては、改訂版でアップデートされているので注意しましょう。
gyatuby.hatenablog.com


例えば公益事業債の場合には、時価総額が債券債務の50%以上が最低条件となります。

この2つの基準を同時に満たす必要はありませんが、どちらかが最低基準を満たさない場合にはその原因について調査する必要はあるでしょう。



株式時価レシオがかなり大きいとき

  • まず最初にインタレスト・カバレッジは最低基準を僅かに上回っている程度だが、株式時価レシオがそれよりかなり大きいときのケースを考えてみよう。
  • それが意味するものはその会社の業績に対する投資家の評価がかなり高く、その結果その債券の安全性に対する信頼も大きくなっているということである。

具体例ではインタレスト・カバレッジは工業債の最低基準3倍を僅かに上回っていますが、株式時価レシオには大きく余裕があります。

このように自分で調査しなくても、時価総額にはある程度業績見通しが織り込まれているため、信頼できる指標のひとつと言えるでしょう。



株式時価レシオが小さいとき

  • これと逆のケースがインタレスト・カバレッジは満足すべき水準にあるものの、株式評価レシオが小さいという場合である。
  • もしある会社の株価が安すぎるという理由でその会社の債券を購入するならば、それは基本的には間違った考え方である。
  • 株価が安すぎるという自らの判断に自信があるならば、なぜ債券ではなく株式を買わないのだろうか。
  • もしもその株価に対する自分の判断が間違っていたならば、株式と同様に魅力のない債券を購入することになる。
  • もしそのような株式の購入が得策ではないと判断したならば、別の会社の債券に目を向けるのが正しい論理ではないだろうか。

逆に、株価が不自然なほど安い場合には、何らかの悪材料がすでに織り込まれている可能性があります。

それでも企業の将来性に自信があるのであれば、債券よりも株式を購入したほうが、大きなキャピタルゲインを得られるチャンスがあります。



鉄道と公益事業会社の株式時価レシオ

  • 鉄道と公益事業会社の株式時価レシオは複雑である。
  • バランスシートに記載された債券債務に加え、賃借債務、親会社の債券に優先する子会社の債券や優先配当も考慮しなけれなならないからである。
  • こうした理由から、鉄道債と公益事業債に株式時価レシオを適用することはかなり困難である。
  • 別の言い方をすれば、それらの債券には工業債の場合ほど厳密にこの指標を適用する必要がない。
  • もしこれらの債券にも株式時価レシオを適用したいというのであれば、金融費用を資産に計上すれば十分であろう。

工業債の株式時価レシオは比較的簡単に算定できますが、鉄道債や公益事業債では引用のように複雑になります。

なぜならバランスシートに計上されない各種要因があるためです。

この点、グレアムは鉄道債や公益事業債に株式時価レシオを厳密に適用する必要はないと述べています。



株式時価レシオの調整は不要

  • 「市場環境の変化を反映させるために、どのように株式時価レシオを調整すればよいのか」といった質問をよく受ける。
  • われわれは投資家に対して、株価が高いときには株式時価レシオを高めに取るべきであると忠告することはできない。
  • また、弱気相場のときにその逆のことを勧めることもできない。

一般に不況期よりも好況期には債券債務に対する株式時価レシオは高くなるため、株式時価レシオの最低基準を引き上げるべきかという疑問が出ます。

これについては投資家も人間である以上、市場のムードに左右されがちなため、仮に基準を引き上げるべきだとしてもその忠告を実行することは難しいからです。



確定利付き証券を選択するときの最低基準の要約

1、発行体の規模

  • 地方自治体(人口)30,000人
  • 公益事業会社(総収益)2,000,000ドル
  • 鉄道会社(総収益)3,000,000ドル
  • 工業会社(総収益)5,000,000ドル

2、インタレスト・カバレッジ(過去7年平均、改訂あり)

  • 公益企業4倍(過去7年間中の最低の年:3倍)
  • 鉄道5倍(過去7年間中の最低の年:4倍)
  • 事業会社7倍(過去7年間中の最低の年:5倍)
  • 小売業5倍(過去7年間中の最低の年:4倍)
  • 不動産抵当債券(推定値)5倍?

3、不動産抵当債券

  • (平常時の実売価格に基づく)その不動産の適正価額が債券価格の50%以上であること
  • 投資信託債━━資産の時価に基づいた上記と同じ基準

4、株式時価総額

  • 公益事業会社 債券債務の50%
  • 鉄道会社 債券債務の66 2/3%
  • 工業会社 債券債務の100%



まとめ

  1. その企業の価値を測る「ひとつの大ざっぱな指標」または手掛かりとしてこの株式時価レシオを提唱している。
  2. インタレスト・カバレッジと株式時価レシオの両方の指標を適用する必要はなく、どちらか一方を使うだけでよい。
  3. しかし、2つの指標が適格と一致しないときには、その原因についてよく考えてみる必要がある。

おわりに

日銀は、約30年ぶりの水準まで政策金利を引き上げました。

今後の具体的な利上げペースについて明確な言及はなかったものの、市場では長期金利が節目とされる2%水準に到達しています。


これまで日本では低金利が続き、国債社債は「安全だが魅力に乏しい資産」と見なされがちでした。

しかし金利上昇局面に入ったことで、債券もポートフォリオに組み入れる価値のある選択肢になりつつあります。


私自身、これまでは金利上昇に備えて変動金利型の個人向け国債を中心に投資してきました。

ただ、長期金利がここまで上昇してきた今、固定金利国債社債を一部組み入れるタイミングを検討してもよいのではないかと感じています。


株価の下落や住宅ローン金利の上昇といったマイナス面は気になるものの、一方で「金利がある世界」に戻りつつあることは、資産運用の選択肢が広がるという意味では前向きに捉えることもできそうです。

今後は、株式偏重だったポートフォリオを見直し、金利収入を安定的に得られる資産とのバランスを意識していきたいところです。

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