今回が債券投資の基準を扱う最後になります。
これまでの債券投資の基準のまとめも載せているので、繰り返し頭に入れましょう。
- 出発点となるニューヨーク州法令(前回)
- ニューヨーク州法令の一般基準(前回)
- 資本金と債券債務
- ニューヨーク州法令の規定
- こうした安全基準を適用する問題点
- 企業の実質価値を重視
- 継続企業としての価値と収益力
- 株式時価に基づく株主資本
- 株式時価レシオの最低基準
- 株式時価レシオがかなり大きいとき
- 株式時価レシオが小さいとき
- 鉄道と公益事業会社の株式時価レシオ
- 株式時価レシオの調整は不要
- 確定利付き証券を選択するときの最低基準の要約
- まとめ
- おわりに
出発点となるニューヨーク州法令(前回)
何も手掛かりがないよりかは、すでにある法令や規則をもとにルール作りするのは理にかなっているでしょう。
しかし、スタートとなるニューヨーク州の法令の範囲は極めて多岐にわたっていますが、その多くは重要な点で時代遅れであったり、また完全に理論的または科学的な基準に基づいているのものも少ないようです。
そのため、あくまでルール作りの手掛かりとしてニューヨーク州法令を分析します。
ニューヨーク州法令の一般基準(前回)
- ニューヨーク州法令に規定された債券投資の一般基準は、①発行体の性質と立地、②発行体の規模、③発行証券の条件、④債務返済・配当能力の実績、⑤支払利息に対する収益の比率、⑥債券発行残高に対する資産価値の比率、⑦債券発行残高に対する株主資本の比率━━に大別される。
今回は⑦ 債券発行残高に対する株主資本の比率について見ていきます。
資本金と債券債務
- 債券債務を差し引いたあとの資本金と剰余金の合計は、負債を差し引いた資産ということができる。
一般的に「純資産」といえば、資産から負債を差し引いた金額を指します。
しかし、ここで扱われている純資産は少し意味が異なり、負債のうち「債券債務」をあらためて取り出して計算しています。
つまり、通常の純資産とは計算の前提が違う点に注意が必要です。
また、簿記でいう純資産は「資本金+剰余金」で構成されますが、この文脈ではその部分を「株主資本」として表示しています。
名称が変わるだけでなく、読み取るべき意味もわずかに異なるため、財務分析では用語の定義をしっかり確認することが大切です。
ニューヨーク州法令の規定
- 上記のバランスシートの算式を見ると、実はこの2つの算式はほぼ同じことを意味していることが分かる。
計算例では、流動資産と流動負債の差額が運転資本として表示されています。
また債券債務を固定負債から別記しているのも特徴です。
こうした安全基準を適用する問題点
- しかし、こうした資本金の安全基準を公益事業債に適用することには多くの問題がある。
- 決算数字だけでその債券の安全性を測ることの誤りについては先に指摘したが、実際には次のようなケースもある。
- 例えば、ある公益事業会社の損益計算書の決算数字は満足のいくものだが、資産のカバー率が極めて低いような場合、その収益率は高いが財務力は弱いということになる。
- こうした状況の下では、資産価値または株主資本に関するこうした投資適格基準を公益事業債や鉄道債に適用することは問題である。
借金を返済する能力は、必ずしも「お金持ち」であるかどうかでは決まりません。
たとえ手元資金が多くなくても、安定して十分な収入があれば問題なく返済できます。
しかし、ここで厳格に「資本金の安全基準」を当てはめてしまうと、こうした健全で優秀な企業が発行する債券であっても、形式的に投資不適格と判断されてしまいます。
本来なら安全と評価できる企業まで除外されるため、基準の使い方には注意が必要です。
期待収益が怪しければ資産を厳しく見るべき
- もちろん、その会社が将来の債券債務の支払利息をどれだけ賄えるかのベースとなる業績見通しが疑わしいような場合、簿価に基づくこうした株主資本基準を公益事業債や鉄道債などに適用することに反対する理由はない。
- ただしそのような場合でも、債券債務60%に対して資本金+剰余金が40%という一般的な基準は、支払利息に対する収益の倍率が1.75倍という最低基準よりも厳しくすべきである。
もちろん将来の収益が怪しければ、資産を厳しく見る必要があります。
この時、ニューヨーク州法令の基準より厳しくするべきと述べています。
企業の実質価値を重視
- われわれがこうした資産価値の基準に反対するのは、「固定資産の簿価」はその債券の安全性を測る基準としては実際にはまったく意味がないという理由による。
- しかしその一方でわれわれは、債券債務に対する「継続企業としての価値」の大きな安全余裕率は重要であるばかりか、確定利付き証券の安全性を保証する確かな条件でもあると考える。
- そうであるならば、それが鉄道債、電話債またはデパート債であるとを問わず、投資家がその会社の債券に自分のおカネを投じるときには、その会社の継続企業としての価値が資産をどれほど上回っているのかよよく考えてみる必要がある。
支払った金額を示す簿価ではなく、その固定資産を使用して生まれる価値(収益を生む価値)が重要です。
グレアムは債券債務に対するこの使用価値の大きな安全余裕率が重要であるとともに、確定利付き証券の安全性を保証すると述べています。
継続企業としての価値と収益力
- その会社の「企業実体としての価値」はその収益力によって決まる。
- そしてその収益力を裏付けるのはその会社の業績である。
- というのは、収益力とはその会社の支払利息の負担能力と、継続企業としての価値が債券発行残高の額面総額をどれだけ上回っているのかを反映したものであるからだ。
- 債券の選択に際して、多くの投資家が数字上のまたは数量的要因の大きな目安としてその会社の業績を重視するのもこうした理由による。
- それ以外のすべての基準は、質的または主観的な要因である(経営陣の能力や業績見通しなどに関する個人的な見方など)。
企業それ自体の価値はその収益力によって決まり、その収益力を裏付けるのはその会社の業績です。
そのため多くの投資家が損益計算書に目を通します。
株式時価に基づく株主資本
こうした理由からPL項目だけで企業価値を算定するのはあまりに単純化しすぎます。
そこでグレアムは債券債務に対する株式時価レシオを用います。
株式時価レシオの最低基準

- もしこの2つの指標の間にこのような関係が常に成り立っているのであれば、これら2つの指標を適用する必要はなく、どちらか一方を使うだけでよい。
- しかし2つの指標が一致しないときには、その原因についてよく考えてみる必要がある。
この表のインタレスト・カバレッジについては、改訂版でアップデートされているので注意しましょう。
gyatuby.hatenablog.com
例えば公益事業債の場合には、時価総額が債券債務の50%以上が最低条件となります。
この2つの基準を同時に満たす必要はありませんが、どちらかが最低基準を満たさない場合にはその原因について調査する必要はあるでしょう。
株式時価レシオがかなり大きいとき
具体例ではインタレスト・カバレッジは工業債の最低基準3倍を僅かに上回っていますが、株式時価レシオには大きく余裕があります。
このように自分で調査しなくても、時価総額にはある程度業績見通しが織り込まれているため、信頼できる指標のひとつと言えるでしょう。
株式時価レシオが小さいとき
逆に、株価が不自然なほど安い場合には、何らかの悪材料がすでに織り込まれている可能性があります。
それでも企業の将来性に自信があるのであれば、債券よりも株式を購入したほうが、大きなキャピタルゲインを得られるチャンスがあります。
鉄道と公益事業会社の株式時価レシオ
工業債の株式時価レシオは比較的簡単に算定できますが、鉄道債や公益事業債では引用のように複雑になります。
なぜならバランスシートに計上されない各種要因があるためです。
この点、グレアムは鉄道債や公益事業債に株式時価レシオを厳密に適用する必要はないと述べています。
株式時価レシオの調整は不要
一般に不況期よりも好況期には債券債務に対する株式時価レシオは高くなるため、株式時価レシオの最低基準を引き上げるべきかという疑問が出ます。
これについては投資家も人間である以上、市場のムードに左右されがちなため、仮に基準を引き上げるべきだとしてもその忠告を実行することは難しいからです。
確定利付き証券を選択するときの最低基準の要約
1、発行体の規模
- 地方自治体(人口)30,000人
- 公益事業会社(総収益)2,000,000ドル
- 鉄道会社(総収益)3,000,000ドル
- 工業会社(総収益)5,000,000ドル
まとめ
おわりに
日銀は、約30年ぶりの水準まで政策金利を引き上げました。
今後の具体的な利上げペースについて明確な言及はなかったものの、市場では長期金利が節目とされる2%水準に到達しています。
これまで日本では低金利が続き、国債や社債は「安全だが魅力に乏しい資産」と見なされがちでした。
しかし金利上昇局面に入ったことで、債券もポートフォリオに組み入れる価値のある選択肢になりつつあります。
私自身、これまでは金利上昇に備えて変動金利型の個人向け国債を中心に投資してきました。
ただ、長期金利がここまで上昇してきた今、固定金利の国債や社債を一部組み入れるタイミングを検討してもよいのではないかと感じています。
株価の下落や住宅ローン金利の上昇といったマイナス面は気になるものの、一方で「金利がある世界」に戻りつつあることは、資産運用の選択肢が広がるという意味では前向きに捉えることもできそうです。
今後は、株式偏重だったポートフォリオを見直し、金利収入を安定的に得られる資産とのバランスを意識していきたいところです。
↓押していただけると更新の励みになります。