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証券分析第9章①〜債券投資の基準③

債券投資の安全性を見極めるには、担保の有無や利回りの高さだけでなく、発行体の財務力や支払い実績を重視する必要があります。

今回は発行条件と返済・配当実績の基準について解説します。

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ニューヨーク州法令の一般基準(前回)

  • ニューヨーク州法令に規定された債券投資の一般基準は、①発行体の性質と立地、②発行体の規模、③発行証券の条件、④債務返済・配当能力の実績、⑤支払利息に対する収益の比率、⑥債券発行残高に対する資産価値の比率、⑦債券発行残高に対する株主資本の比率━━に大別される。

今回は③発行証券の条件、および④債務返済・配当能力の実績について見ていきます。



発行条件

  • 発行条件にはその債券の安全性、利払い条件、満期日━━などが含まれる。

ニューヨーク州法令では、公益事業債については担保付き社債しか購入が認められていません。

一方で、無担保であっても厳しい安全基準を満たす鉄道債や、同様の基準を満たす収益社債(利息が発行会社の収益によって変動する債券)は、投資適格として認められています。



非論理的で時代遅れの規制

  • こうした一連の規制は極めて非論理的で時代遅れである。
  • 特定の無担保社債を投資適格の範囲から除外したり、または無担保社債よりは担保付き社債のほうが安心であるといったような偏った基準や要件を設けることにも反対である。

以前も述べたように、グレアムは「担保の有無」よりも「発行会社の財務力」を重視しており、ニューヨーク州法令のように担保の有無で投資可否を判断する基準には反対しています。


もちろん、他の条件がまったく同じであれば、担保があるほうが望ましいのは言うまでもありません。

そのため、無担保社債を購入する場合には、一番抵当付き社債よりも厳しい基準――特に収益カバレッジ(利払い能力)――を適用する必要があります。


ただし、一番抵当付き社債を選ぶかどうかは、あくまで投資家の好みや判断によるものであり、定量的な基準から導かれる必然ではないと述べています。



ランクが低い収益社債

  • 収益社債の条件は銘柄によって大きく異なっており、収益が上がれば必ず配当するといったものから、配当の有無は取締役会の決定によるといったものまで多岐にわたる。
  • 全体として収益社債は通常の確定利付き債券というよりはむしろ優先株に似ている。

収益社債(利息が発行会社の収益によって変動する債券)は、通常の確定利付き債券というよりも、むしろ優先株に近い性質を持っています。

というのも、その利息は発行会社の収益状況に応じて変動するため、元利払いが保証されていない点で「債券」としての安定性に欠けるからです。


グレアムは「優先株を額面で買ってはいけない」と述べていますが、同じ考え方を収益社債にも当てはめることができます。

つまり、収益社債は債券の中でもランクが低く、保守的な投資家には適さないということです。


なお、このような収益社債の性質については、後の章で優先株の特徴を分析する際により詳しく検討します。



満期日と安全性

  • 投資家は短期債または長期債のいずれを問わず、債券の「満期日」をかなり重視する傾向がある。
  • 安全性という観点から見て、短い満期のほうが有利であると考えているのがその理由である。
  • その結果、長期債よりも短い満期(例えば3年以内)の債券を購入するときにはその安全性を甘くしがちである。

一般的に、満期までの期間が長いほど利子率(利回り)は高くなります。

これは、投資資金を長期間リスクに晒すことへの対価として、より高い利回りが求められるためです。


そのため、保守的な投資家は長期債よりも、価格変動のリスクが小さい短期債を好む傾向があります。

しかし、満期の短い債券(たとえば3年以内)を選ぶ際に、「短期だから安全だろう」と油断して、債券そのものの安全性を軽視してしまうことがよくあります。



短い満期に甘い基準は禁物

  • われわれの考えによれば、こうしたやり方は正しくない。
  • 短い満期というのは、逆に言えばその発行企業が投資家に対してすぐに元利を返済し、借り換えを迫られることを意味する。
  • 投資家は単なる満期の長短をもってその債券の安全性を測ってはならない。
  • その企業が新たに資金を調達するには十分な現金を保有しているか、またはそれを可能にするだけの収益力や財務力をもっているのかという点が重要である。
  • 信用格付けが低いために相応の価格で長期債を発行することができないために、短期債を発行する企業も少なくないからである。
  • こうして発行された短期債が満期時に、発行企業のみならずそれを購入した投資家にもさまざまなトラブルを引き起こすケースもよく見られる。
  • 以上の理由から、われわれは短期債と長期債を区別して、短期債のほうに甘い基準を適用することには反対する。

しかし、グレアムは「短期債は安全」という一般的な考え方に異を唱えています。


その理由は、短期債の発行企業は短い期間で元本と利息を返済しなければならず、資金繰りに余裕がない場合にはすぐに借り換えを強いられるためです。

また、信用格付けが低く、長期債を有利な条件で発行できない企業が、やむを得ず短期債を発行していることもあります。


このような事情から、グレアムは「短期だから安全」として甘い基準を適用すること、すなわち短期債を長期債よりも優遇する考え方に明確に反対しています。



利息と配当の実績

  • 安全基準に照らして債券を購入する場合には、その発行会社が長期にわたる好業績と安定した財務力の裏付けがあるのかどうかを見極めなければならない。
  • 新興企業や経営危機を脱したばかりの企業は高い信用格付けが得られないため、確定利付き債券の投資対象としては不適当である。
  • これまでの何年間に満期日の償還を滞らせたような州や地方自治体も投資適格の基準から除外したほうがよい。

長期にわたって安定して配当を出すためには、継続的な好業績と健全な財務基盤が欠かせません。

そして、そのような企業ほど自然と高い信用格付けを得る傾向があります。


一方で、新興企業や経営再建を終えたばかりの企業は、まだ実績や安定性に乏しいため、高い信用格付けを得ることが難しく、保守的な投資家にとっては確定利付き債券の投資対象として不適切だといえるでしょう。



ニューヨーク州法令の規定

  • 例えば、ニューヨーク州以外の州の債券は過去10年間に元利の支払いでデフォルトがなければ投資適格としている。
  • 債券の評価はその発行会社の業績だけに基づいてはならない。
  • 投資家は期日どおりの元利支払いにきちんとした実績があるのかどうかについてもよく調べるべきである。
  • もしその地方債の信用格付けが低く、デフォルトの可能性が少しでも認められるような場合には、いくら高利回りの債券であってもそれらを購入してはならない。

債券の評価では、発行企業の業績だけでなく元利支払いの実績も重視する必要があります。

一度でも支払いが滞れば、投資適格ランクを回復するには数年の信用回復期間が必要です。


企業であれば、その間に株式や転換社債、大幅な割引債などを発行して資金調達する余地がありますが、地方自治体にはそのような手段がありません。

そのため、信用格付けが低い自治体は高い表面利率で債券を発行せざるを得ないのです。


しかし、グレアムは「高利回りは元本損失リスクを補う理由にはならない」と指摘します。

つまり、信用不安のある地方債は、たとえ高利回りでも保守的な投資家が手を出すべきではないということです。



ジレンマとその解決方法

  • 理論的には正しい債券投資家のそうした対応が多くの地方自治体が必要としている資金調達を困難にするというジレンマである。
  • その理想的な解決法とはおそらく、地方自治体が過去25年間に期限どおりの債務返済を履行できなかったことを埋め合わせられるほど厳しい数量的基準を設定することにあると思われる。
  • 通常よりも高い利回りのこうした地方債は、「大きなリスクを取ることによってではなく、その債券の安全性を自分で確認することによって」初めて購入が可能となるのである。
  • 設立されてまだ日が浅く、期限どおりの債務返済の実績がまだない企業の債券などについても同じような対応が必要であろう。

信用格付けの低い地方債に投資家が慎重な姿勢を取れば、地方自治体は資金調達が難しくなるというジレンマに直面します。


この問題を解決するためにグレアムは、支払い実績が乏しい場合には、より厳しい数量的基準を設けるべきと述べています。

つまり、実績はなくとも財務内容や経営実態が健全であれば、一定の高利回りを許容して投資することは合理的だという立場です。


単に「利回りの高さ」に飛びつくのではなく、裏付けとなる実力を確認することこそが健全な債券投資の基本だといえます。



配当実績

  • 適法投資に関する各州の法令では、債券発行会社の配当実績がかなり重視されている。
  • 多くの州では、少なくとも過去5年間に最低基準の定期配当を支払った企業の債券だけを投資適格としている。

多くの州では、債券の安全性を判断する際に利子の支払い実績だけでなく、配当の継続実績も重視していました。

これはおそらく、「企業は利益を上げて配当を支払うことで初めて成功しているといえる」という考え方に基づいています。

そのため、実際に配当を出してきた企業の債券こそが信頼に値する=投資適格とみなされる、という発想だったのです。



配当は財務力を表すものではない
  • 無配の企業のすべての債券を投資適格のカテゴリーから除外してしまうのも問題である。
  • その理由は、配当というものはその企業の財務力を表すひとつの指標にすぎず、それはその債券保有者に直接的なメリットをもたらすものではなく、それどころかその企業の業績が悪化すればすぐに減配・無配ということになるからである。

確かに、配当実績がある企業は一般的に健全で繁栄しているように見えます。

しかし、配当は財務健全性を示す多くの指標のうちの一つに過ぎず、債券保有者に直接関係するものではありません。


業績が悪化すれば配当はすぐに減額・停止される可能性があり、配当実績だけを安全性の根拠とするのは危険です。

中には、債券の信用格付けを保つために無理な配当を続ける企業もあり、見かけの配当実績には注意が必要です。



配当実績の意味
  • その企業の安全性を調べる場合、配当実績よりも確実なヒントはバランスシートや損益計算書から得られる。
  • このため、インカムゲインを目的とした債券の投資適格性を調べる場合には、配当実績に関する厳しい基準はあまり当てにしないほうがよい。
  • 有配企業の債券は、その保有者があとで無配になった場合などにはその企業の経営難など事前に察知できるという点ではたしかにそれなりのメリットはある。
  • その意味では無配企業の債券はかなり注意する必要があるが、われわれの見解によれば、そうした債券のリスクも投資家が少し気をつけていれば十分に避けられるものである。

企業の安全性を評価するなら、恣意的に操作されやすい配当実績よりも、バランスシートや損益計算書といった財務諸表を確認する方が確実です。

そのため、配当実績に対して過度に厳しい基準を設ける必要はなく、財務内容に基づく判断の方がより信頼できると言えます。




まとめ

  1. 無担保社債を購入する場合には、一番抵当付き社債よりも厳しい基準――特に収益カバレッジ(利払い能力)――を適用する必要がある。
  2. 投資家は単なる満期の長短をもってその債券の安全性を測ってはならない。
  3. 投資家は期日どおりの元利支払いにきちんとした実績があるのかどうかについてもよく調べるべきである。
  4. 支払い実績が乏しい場合には、より厳しい数量的基準を設けるべき。
  5. 配当実績に対して過度に厳しい基準を設ける必要はなく、財務内容に基づく判断の方がより信頼できるといえる。

おわりに

ソフトバンクグループ(SBG)が個人向け社債を発行し、利回りが約4%と高いことで大きな話題になりました。

https://x.com/gyatubeee/status/1993574325564457236?s=46&t=lFBKo0tb2kBRyFxxsO6mxA

日本の社債としてはかなり魅力的に見えますが、グレアムの言う「高利回りは元本損失リスクを補う理由にはならない」という原則を思い出す必要があります。

ソフトバンクグループは投資会社であり、収益が投資先の状況に大きく左右されます。

そのため業績のブレが大きく、財務の安定性には注意が必要です。

とくに最近は OpenAI への投資を拡大しており、収益や財務の先行きが AI 関連投資の成否に強く依存する状況になっています。


直近では AI 関連の評価益によって業績が改善しているように見えますが、評価益は実際の現金収入ではありません。

グレアムの基準で重視される「継続的な支払い能力」とは性質が異なるため、この点は慎重に見なければなりません。

今後、債券投資の基準をしっかり学んだうえで、ソフトバンクグループの社債が本当に「投資」に値するかどうか、財務データをもとに丁寧に分析していきたいと思います。

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