本書で最も役立つであろう、普通株を選ぶ基準について学んでいきます。
防衛的投資家が選ぶべき普通株が明らかになります。
復習:防衛的投資家の投資方針
- われわれの示唆に従う防衛的投資家は、優良債券および主要普通株を分散して購入するだろう。
- 株式を買う場合は、価格は基準に照らして不当に高くなってはならない。
防衛的投資家に勧める投資方針の概要は以下の記事をご覧ください。
gyatuby.hatenablog.com
ここでは、投資方針を実行に移すために証券分析をどのように行うかを説明しています。
分散投資の2つのやり方
防衛的投資家がこの分散投資にあたり、上記2つの選択肢があります。
つまりインデックス投資を行うか、アクティブ投資を行うかです。
1、インデックス投資の場合
- 前者の場合、主要銘柄を網羅した買い方になるので、非常に高い株価収益率で売られている人気成長株も、あまり人気がなく株価が安い株式も含む。
- 過去の記録から、この方法からは数社の投信を買うのとほぼ同じ成果を期待できる。
最も単純なのは、インデックス採用銘柄を全て同じ株数だけ買う方法です。
とはいえ、この方法では多額の資金が必要になるため、通常はインデックス投信を購入することになります。
2、アクティブ投資の場合
- 第二の方法は、各株の購入に際して二つの基準を適用する。
- それは、自分が買おうとしているのは、①その会社の過去の業績と現在の財務状況に関する最低限の基準であること、②株価に対する収益と資産に関する最低限の基準を満たすものであることーーを確認するということである。
前章の終わりに、防衛的投資家が満たすべき7つの基準を取り上げました。
gyatuby.hatenablog.com
防衛的投資家はこのような基準に沿う株式を分散投資を行うことで、インデックスと同等の成績が期待できます。
防衛的投資家が満たすべき7つの基準
- 前章の終わりに、特定の普通株選択にあたってのこのような質的、量的基準を七つ挙げたが、各項目ごとに説明しよう。
- 企業の適切な規模
- 十分に健全な財務状況
- 収益の安定性
- 配当歴
- 収益の伸び
- 妥当な株価収益率
- 妥当な株価純資産倍率
前回も説明がありましたが、将来予測は精度の問題があるため行いません。
ここでは過去の業績と現在の財務状況が最低限良好かどうか、株価が収益や資産に対して割安かどうかを、防衛的投資家は確認します。
各項目ごとに説明を見ていきましょう。
1、企業の適切な規模
- われわれのいう最小値、特に必要な企業規模についての最小値は、あくまで独断である。
- われわれは特に事業会社分野において平均以上の変動の影響を受けやすい小企業を排除すべきだと考える。
- 大体の目安として、製造業では年間売上が10億ドル以上、公益企業では総資産5000万ドル以上であることが望ましい。
改訂版『新賢明なる投資家』では、時価総額100万ドル以上といった基準が新たに示されていますが、常識の範囲で大企業であればそれで構わないと説明されています。
あくまで平均以上の変動の影響を受けやすい小企業を排除するための基準です。
3、収益の安定性
- 過去10年間、毎年普通株の収益があること。
つまり、過去10年間において一度も赤字がないということです。
こちらは有価証券報告書で過去5年分のサマリーを簡単に確認できるので、参考にしてください。
4、配当歴
- 少なくとも過去20年間において無配当の年がないこと。
こちらも有価証券報告書で5年分遡れるので、4回見れば確認できますが少し面倒ですね。
減配銘柄は拾えませんが、連続増配銘柄や連続累進配当(減配なし)銘柄は下記記事を参考にしてください。
「日経連続増配株指数」「日経累進高配当株指数」の公表開始について | 株式会社 日本経済新聞社のプレスリリース
5、収益の伸び
- 過去10年間において初めの3年間と最後の3年間の平均を比べて、一株当たり利益が最低3分の1以上伸びていること。
表現が少し紛らわしいですが、最後の3年間が1968−70年なら、初めの3年間は1958−60年です。
つまり1958〜70年の計13年分を確認する必要があります。
6、妥当な株価収益率
- 現在の株価が過去3年間の平均収益の15倍を上回らないこと。
PER(株価収益率)は、バリュー投資を行う上でとても役に立つ指標の一つです。
過去3年間の平均収益を求める必要があるため、少し計算に手間がかかりますが、単年度のPERより会計上の要因(特別項目など)の影響を和らげることができるほか、その企業の収益力を示すことができます。
7、妥当な株価純資産倍率
- 直近の報告書において、現在の株価が簿価の1.5倍以下であること。
- ただし収益の15倍以下であれば、それに伴って簿価比率が高くても構わない。
- 経験則から、株価収益率に株価純資産倍率を掛け合わせたものが22.5倍以上であってはならない。
PBR(株価純資産倍率)も、バリュー投資ではよく使う指標です。
原則、PBR1.5倍以下を推奨していますが、PERに余裕があるならもう少し妥協しても良いと説明されています。
もしPER10倍だとしたら、PBRは22.5倍/PER10倍=PBR2.25倍までは許容するといった具合です。
説明
- 以上の基準は、特に防衛的投資家の要求と気質に見合うように設定してある。
- これを採用すると、ポートフォリオの対象となるほとんどの普通株は除外されてしまう。
- 一方で、①あまりにも規模が小さく、②財務体質が弱く、③10年間に赤字という不名誉な記録があり、④配当継続の長い歴史がないーといった企業も除外される。
- 行きすぎた株価は将来も収益が増え続けることに依存せざるを得ず、適切な安全性に欠けるのだ。
- にもかかわらず、われわれはある程度過去に成長していることが必要だと述べた。
- さもなければほとんどの企業は、少なくとも投下資本一ドルあたりの利益という点で後退を示すからである。
- 防衛的投資家はポートフォリオにそのような企業の株を含むべきではない。
- しかし、株価が十分安ければ割安のチャンスと考えていいだろう。
実際にこれらの基準を適用すると、普通株のほとんどが除外されます。
それだけ厳しい基準といえそうです。
なお過去の成長率を加味するのは、成長が後退する恐れのある銘柄を排除するためです。
停滞で終わればいいですが、たいていは衰退していきます。
なお、株価が十分安ければ、割安で購入できるチャンスでもあるとも補足されています。
基準をアップデートさせる余地はあるか?
以上の基準は、株式益回り(株価収益率の逆数)が、少なくとも現在の優良債券の利回りと同程度となるように構築されています。
ではこれらの基準をアップデートする余地はあるでしょうか。
日本基準のAA社債の利回りは2024/7月時点では20年物で2.555%になるようです。
https://www.b-trust.co.jp/pdf/taikyu/shasai.pdf
であれば、1/2.555%=39.14倍までPERを拡大させる余地がありそうですが、個人的には広げすぎかなと思います。
では金利が高止まりしているアメリカの利回りを採用するのはどうでしょうか。
米国債30年物の金利が4.604%(SBI証券より)となっています。
マーケット|SBI証券
そのため、1/4.604%=21.72倍までPERを拡大させることができ、15倍では候補が足りない場合には適用することを検討しても良さそうです。
1970年末のダウ工業株をわれわれの基準に照らすと…
実際に1970年末のダウ工業株で、グレアムの基準を適用すると5社が該当するそうです。
しかしながら直近の値動きは、ダウ平均よりも低調でした。
このことから、どんな公式を採用しても、市場での優れた成果を保証するものではないと警告しています。
グレアムはあくまで、ポートフォリオの買い手として価値ある買い物であると保証するに過ぎないのであって、実際に値動きが良いかまで保証するものではないと説明しています。